自分を表現する短歌に親しもう
「短歌とは人生の投影である」
そう語る依田仁美さんが詠む短歌はいわゆる型には収まりきらない。
先鋭的とも破天荒とも評される短歌は常に自分らしくありたいという依田さんの強い信念の表れでもある。
自分の言葉で表現する
北原白秋や与謝野晶子など著名な歌人の流れをくみ、「五・七・五・七・七」のリズムに乗せて美しい言葉を情緒的に綴ることに主眼を置いてきた短歌。俵万智の口語調の歌が広く知られるようになり、自由な表現も増えてきたが、まだまだ短歌は堅苦しいものというイメージがつきまとう。そんななか、依田さんは30年以上も前から一風変わった短歌を発表してきた。ときには短歌らしくない荒々しい言葉や挑発的な表現も使い、字余りも字足らずも気にしない。思いのままを自分の言葉で表現する、それが依田さんの短歌なのだ。
転機となった人との出会い
両親が趣味として短歌や俳句をたしなみ、家には歌集があったという依田さん。幼い頃は百人一首に興味をもって、一生懸命覚えたこともあった。そんな依田さんは高校生の頃にごく自然に短歌を作っていたという。本格的に習ったのは、大学4年から電気メーカーに就職した約半年の間、当時『角川短歌』編集長だった歌人から実に懇切な指導を受けた。月に120首もの短歌を半年にわたり、具体的にひとつひとつ、「鍛えられた」という。その後、20代後半になって、現在も所属する『短歌人会』に入る一方で、詩の同人誌『VOU』を主宰し、新感覚の作品を発表していたよき理解者・北園克衛氏に出会う。このあたりの歌人・詩人との交流が現在の依田さんの原点であるという。
「言葉のギザギザ」を大事にしたい
「人生の本質は個別性と主体性」と語る依田さん。個別性は一人をつらぬくこと、そして外に働きかけていく主体性、創作活動の基本はこの考え方にある。そこで依田さんは「短歌の世界に自分が取り込まれていく」ことよりも「自分の世界に短歌を取り込む」ことを選択した。短歌とどう付き合うかだけを考え、「メッセージ性の強い言葉で読み手に訴える、とんがった表現」の短歌を作り続けてきたのだ。
依田さんが歌を作るとき最も大切にしているのが「言葉のギザギザ」だ。一字一句が大切な短歌の世界。他の人と同じ言葉を同じように使っていては自分らしさを出すことができない。そこで難しい漢字や言葉を用いたり、どこか変!?と思わせる言葉の使い方をしたりもする。自分の気持ちにぴったりくる言葉が見つからないときには、言葉を造ってしまうこともしばしばだ。これが「言葉のギザギザ」。読み手が引っかかるような言葉をわざと使うことによって、読み手にゆさぶりをかける。読み手を惹きつけ、その人なりに何かを感じてほしいのだ。
江戸前に短歌たたきて一本気有終とおきわがクロニクル
所詮は 口強馬(くちごわうま)の濡れ走り神よ仏陀よしばらく御免
「クロニクル」とは年代記・歴史記という意味。「口強馬」は現代では消えかかった語を依田さんが発掘したものだ。
言葉に人一倍こだわる依田さんにとって、「言葉を集める」ということは短歌を作るのと同じくらい大事なこと。自分の気持ちを代弁してくれるような言葉に出会えたときは「やった!」と思う。読んだ本や聞いた話などのなかから自分の心に引っかかった言葉をメモしておくこともあるが、決してすぐには使わない。吟味し、熟考し、その言葉の本質を知ることができたとき自分の言葉として使うのだ。言葉の箱にたくさんの言葉を入れておき、その言葉が自分のものになるまで温めておく、それが依田さんの短歌だ。
気軽に自分の気持ちを表現しよう
「短歌とは自分が見たもの、感じたことをそのままに表現するもの。そうは言っても、奥が深くて掘っても掘っても掘りつくせない。もっともっと表現したいと思うのです。それが短歌の魅力です」と語る依田さん。短歌というと難しく感じるが、「自分の気持ちだけで創作できる気軽なものです。例えば目の前の風景を五・七・五・七・七のリズムで言葉にしてみましょう。誰でも簡単に作れることに気づくのではないでしょうか。自分を表現するひとつの方法として短歌に親しんでみてください」と言う。
依田さんが主宰する短歌の会「舟の会」は、誰でも自由に参加できる気軽な会。年齢や経歴に関係なく、みんなが“仲間”としてお互いの歌を発表しあえる場だ。短歌を楽しみたいという気持ちさえあれば、初心者でも臆することはないそうだ。
「舟の会」のメンバーで今回初めて歌集を出した久保芳美さん(守谷市、短歌グループ『かばん』にも所属:写真右)は、依田さんの勧めや会のみなさんの応援もあって短歌を始めて3年で出版にいたった。
ファッションで愛するフリをするならば金襴緞子でずっしりどっしり
久保さんは「短歌は、自分自身をミソヒトモジ(31文字)でいじり発信・発表する場所だと思っています」と語る。依田さんいわく「10年経つと『上手く』はなるけれど、『美味い』部分は飛んでしまっている。久保さんの歌集『金襴緞子』は、非凡な持ち前が勢いよく突出した、まさに旬」だそうだ。
言葉に敏感になろう
「もっと言葉に敏感になって、自分の心に響く言葉を探してみてはいかがでしょう」と依田さん。インターネットや携帯電話の発達でメールでのやり取りが当たり前になり、以前よりも文章を書く機会は増えているのかもしれない。しかし手軽になった分、言葉の使い方が雑になってはいないだろうか。くだけた表現のメールばかり書いていると、正しい言葉が分からなくなる。日本語の繊細さや美しさを忘れそうになる。そんな現代だからこそ、短歌に触れることで「言葉」と向き合ってみてはいかがだろう。自分の表現方法の一つとして短歌を創作してみれば、新しい言葉の世界が開けるかもしれない。
プロフィール
依田 仁美 Yoshiharu Yoda
1946(昭和21)年、茨城県古河市生まれ。守谷市在住。
短歌人会、日本空手道制護会所属。
日本短歌協会常務理事。現代歌人協会会員。
「現代短歌 舟の会」代表。
歌集に『骨一式』(83年沖積舎) 『乱髪−Rum Parts』(91年ながらみ書房) 『悪戯翼(わるさのつばさ)』(99年雁書館) 『異端陣』(2005年文芸社) 『正十七角形な長城のわたくし』(2010年北冬舎)。
7月には愛犬との思い出の日々を短歌とともに綴った『あいつの面影』(北冬舎)を出版。
ホームページ:http://www.ne.jp/asahi/y.yoda/walser/
現代短歌舟の会
守谷市美園3-9-5
メール uu3y-yd@asahi-net.or.jp
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