子どもたちの未来のために今、自分たちができること
長年、環境問題に取り組んできた児童文学作家の本木洋子さん。
書くことで、地球が置かれている現実を広く知らせながら、環境を守る活動も積極的に行なってきた。
そんな本木さんが、今、もっとも関心を寄せているのが放射能問題。
子どもの文学に携わってきた者として子どもたちの未来をも脅かす放射能に無関心ではいられないと市民団体を立ち上げ、その代表を務める。
「ヒトは他の生物以上に重要な存在ではない」
子どもの頃は近くにあった里山で遊んでいたという本木さんは、自然が大好きで「旅をこよなく愛する風人間」と自らを称する。そんな本木さんが、作家としての第一歩を踏み出したのは、父親から伝え聞いた北茨城の山と海の話をもとに、父親の故郷を題材とした小説を同人誌に投稿したことから。その後子どもがわくわくする冒険物語などの児童文学を出版し、作家としての活動を続けてきた。同時期に環境問題にも関心をもち始める。
その頃に出合ったのが『緑の世界史』という一冊の本。“地球”の視点から、環境を破壊しつつ文明を発展させてきた人類の歴史を論じている本を読み進めていくうちに、本木さんは大きな衝撃を受けた。「地球環境のためにという言葉も、自分たちが自然よりも上に立っているという考えから発せられた言葉なら、それは人のおごりであると思う」と語る本木さんは、地球を守るための行動を開始した。
地球がおかれた現実と向き合おうと、環境保護活動をしているNGO(非政府団体)に参加。内モンゴルやマレーシア、インドネシアなどに行き、子どもたちと一緒に植林をしたり、野生動物の保護活動をするなど、精力的に活動した。
しかし、あるときふと原点に立ち返る。自分の本業は作家。自分が木を30本植えるより、本を書いたほうが環境保護に貢献できるのではないか。そう考え早速、環境問題をテーマにした本の制作に取り掛かる。自然のありがたさ、偉大さ、そして自然にはかなわないという畏敬の念、それらを絵本で表現しようと思った。絵本にしたのは、絵があったほうが誰にでも分かりやすく、想いが伝わると考えたからだ。そして出来上がったのが『よみがえれ、えりもの森』や『やんばるの森がざわめく』。『よみがえれ、えりもの森』は、砂で埋まった北海道・襟裳の浜に、50年という歳月をかけて森を蘇らせた漁師の物語、『やんばるの森がざわめく』では、沖縄の森の命を守る人間を書いた。どちらも北海道在住の画家・高田三郎さんの力強いタッチの絵が迫ってくる、大人も考えさせられる絵本に仕上がった。そして『よみがえれ、えりもの森』は青少年全国読書感想文コンクールの課題図書にも指定されて多くの人に読まれることとなり、子どもたちに環境保全の取り組みを学ぶ機会を与えたのだった。
心の故郷・沖縄で思うこと、感じること
本木さんには生まれ故郷という意識はないという。物ごころがつく前に、東京から茨城に移り育った。でも、心の故郷とも呼ぶべき場所がある。それは沖縄。児童文学のセミナーで訪れたのをきっかけに沖縄に通い始めて20年。沖縄を訪ねることは、何より元気になれる特効薬だそうだ。年に3〜4回は訪れる沖縄には「ただいま」と言って空港に降り立つ。広く青い空と海、包み込むような大地の空気、人々の心の優しさや温かさが自分を開放してくれるという。地元の人たちと知り合い、共に行動し、語り合う。沖縄が抱えているさまざまな問題に直面することもある。そうして少しずつ沖縄の本質に近づいていき、仲好しになったオバアに「ウチナーヤマントチュ」(沖縄のことが本当に好きで沖縄の心をもつ本土の人)と言われたときは嬉しかったと語る本木さん。
そこまで沖縄に惹かれる理由は?と尋ねると「沖縄にはアコークローという言葉があります。昼と夜の間、夕方の黄昏時を指すのですが、太陽がなかなか沈まない沖縄はアコークローの時間が長い。その時間になると、亡くなった人の気配を感じることがあります。沖縄の人は信仰心が厚く、先祖を大事にするからでしょうか。沖縄にいると亡くなった母や姉が身近にいる気がして嬉しいのです」と語りつつも「どうして沖縄に惹かれるのか本当はまだ見つかっていないから、見つけに行っているのかもしれません」とも。本木さんを包む大らかさ、温かさ、そして意思の強さや飾らない人柄からは、どこか沖縄の空気感を感じる。沖縄は本木さんの一部なんだと思う。
子どもたちの未来のために
常に問題意識をもって自分にできることを考え、精力的に活動してきた本木さんが、今、もっとも関心をもっているのが放射能問題だ。「地震や津波を受けた所は必ず復興できるでしょう。でも放射能で汚染されてしまった土地の復興は簡単ではない。多くの人が悩み、それぞれの思いを抱えている今、現実に直面しているこの瞬間に書くことが大切では」と放射能問題を扱った作品の創作に取り組んでいる。「あってはいけないものを人間は生み出してしまった」と嘆きつつも、「原発を作った世代としての責任を受け止めなければならない」と言う。放射能問題を考える市民団体『放射能NO!ネットワーク取手』の代表を務めるのもそんな思いがあるからだ。「いろいろな情報があふれている中で、もっとも大事なのは“知ること”。自分なりに考えることができるように、みんなが知っていくための活動をしているのです」と団体の趣旨を語る。私たちはこの先、何十年も目に見えない放射能とつきあっていかなければならない。とくに子どもの健康に対する影響が懸念される中、子どもの文化・文学に長年関わってきた自分が目をそむけるわけにはいかないと、この問題に向き合っている。
40代の頃、40日かけてラクダでシルクロードを旅した。大自然の中に放り出され、文明から離れて何ものとも繋がらない体験をしたという本木さん。環境、放射能、貧困、平和問題…まだまだ取り組みたいテーマはたくさんある。旅をして出会ったアフリカの人々との触れ合いも作品にしたい。いま、水俣市(熊本県)が実施している「みなまた環境絵本大賞」のコーディネーターをしているが、水俣病を乗り越え「環境モデル都市」として再生の道を歩んでいる自然豊かな街、水俣市のことも広く知らせたい。自分の感性を大切に、作品を創作していきたいという本木さん。日々、多忙な生活ながら、児童文学や絵本を通して、これからも熱いメッセージを届けてくれることだろう。
プロフィール
本木 洋子 Youko Motoki
東京で生まれ、幼児期から土浦市で育つ。現在は取手市在住。
日本児童文学者協会・常任理事。
「放射能NO!ネットワーク取手」代表
大学在学中に民俗学と出会い、その後、茨城民俗学会に所属して市史編纂・民俗編の専門委員を務める。1990年頃から地球環境NGOに参加。砂漠化防止や野生動物保護活動でアジアの国々で植林活動、オランウータンやアジアゾウの保全活動をする。カンボジアの子どものパーソナルサポートなども行なう。
作家としては20年間、全国でセミナーなどを開催し、児童文学の普及に努める。
主な作品
<創作>『蘇乱鬼と12の戦士』『もしもしネコをかってます』(童心社)『わすれないで森のねこ屋敷』(大日本図書)『死の山・なぞの黄金伝説』(くもん出版)など。
<ノンフィクション>『いま、地球の子どもたちは』全4巻(新日本出版社)『モモイロペリカンウェンディの長い旅』(汐文社)
<環境絵本>『やんばるの森がざわめく』『よみがえれ、えりもの森』『アンモナイトの夏』(新日本出版社)
ブログ:http://nomadwriter.blog.fc2.com/
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