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『成瀬流 彩の会』家元 成瀬 香縁さん

投稿日: 2011年4月22日

『成瀬流 彩の会』家元 成瀬 香縁さん

日本舞踊をもっと身近なものに

『踊って楽しい、見て楽しい』
日本舞踊を目指して三世代が共に刺激し合い、協力し合いながら稽古に励んでいる『成瀬流彩の会』。
日本舞踊で社会貢献をしたいと老人福祉施設等で積極的に公演も行なう。
「日本舞踊を誰もが気軽に楽しめるものにしたい」と語る家元の成瀬香縁さんにその思いを伺った。

【舞台の上でだけ輝けた幼少時代】

日本の伝統芸能である日本舞踊は、一般の人には敷居が高い稽古事の一つだろう。子どもに習わせたくても、かかる諸費用を考えるととても習わせられないという親も多いそうだ。今ほど子どもの習い事が一般的でなかった成瀬さんの子ども時代、日本舞踊は今よりもさらに手の届かない、良家の子女が通う“お金持ちの習い事”だった。
母子家庭に育ち、決して裕福とはいえない家庭環境だった成瀬さんだが、母の強い勧めもあり5歳から日本舞踊を習い始めた。「自分がやりたかった夢を娘に託したのでしょう」と言うが、「小さい頃から人と接するのが苦手で、自分の殻に閉じこもりがちな自分を心配してくれたのかもしれません」とも。人と目を合わすのが怖くて、小学校に入っても先生はもちろん、友達と会話をすることすらできなかった。そんな成瀬さんだが、舞台の上ではまるで違った人格になったかのように真っ直ぐ顔を上げ、生き生きと自分を表現できたのだ。中学を卒業する頃には将来は舞台女優になろうと決め、芸能学校に通い、役者さんの付き人や内弟子となって修行を重ねた。「底辺から頂点まで、いろいろな人の人生に触れ、自分もさまざまな経験してきました」という当時の体験が今の成瀬さんの礎になっているという。

【日本舞踊界の『ユニクロ』に】

結婚・出産を機に一旦は舞台の世界から離れていたものの、15年前『成瀬流彩の会』を立ち上げる。そこにはお金がかかることで敬遠されがちな日本舞踊を、もっと気軽に子どもたちに楽しんでほしいという思いがあった。お金があるなしにかかわらず、踊りたい人が踊ることができ、本当に素質がある子どもが将来に向かって羽ばたいていけるように手助けをしたいと願う。
「日本舞踊に出会わなければ今の自分はなかった」という成瀬さんは、「“変わった子ども”だった自分を、外の世界に向かわせてくれた日本舞踊でみなさんに恩返しをしたいのです」と語る。子どもたちの経済的負担をなるべく軽くするため、格安の月謝で教え、衣装や小道具など稽古時に必要な物も一式教室で揃えて無料で貸し出している。また稽古の合間には大人の生徒さんに着付けなども教え、発表会には子どもたちの身支度を手伝ってもらうなどして舞台費用も最低限に抑えている。自ら「日本舞踊界の『ユニクロ』になりたい」と言うように、日本舞踊をもっと気軽に習える身近なものにしていきたいそうだ。

【舞台の上は社会そのもの】

成瀬さんが日本舞踊を通して子どもたちに教えたいのは、日本の伝統文化を理解・体得することだけではない。「舞台の上は社会そのものです。舞台の上では常に観客の目を意識します。台本どおりに進むとは限らない舞台の上で、想定外のことが起きたときどうするかということも常に試されます。舞台の上で自分をしっかり表現することが、社会で生きる力につながるのです」。
成瀬さんが子どもたちに常々言っているのは「人に対する姿勢が立派であれ」ということ。舞台(社会)に対峙したとき、背筋を真っ直ぐに伸ばして立てる人であってほしいと言う。そのために大事なのは“自信”を持つこと。大人に“してもらう”ばかりの子どもたちが、自分たちも誰かの役に立っているという実感を持ち、同時にお年寄りに喜んでもらうために積極的に行なっているのが老人福祉施設の訪問だ。子どもたちのかわいらしい踊りを見て、お年寄りが笑顔になる。お年寄りの笑顔を見て、子どもたちも嬉しくなる。「元気がでたよ」「また来てね」と声をかけてくれると、子どもたちはとても満足そうな表情になるそうだ。
こうして人とつながることの喜びを実感するとき、同時に「自分がかけてもらって嬉しかった言葉、優しくされたことは心に貯金しておきなさい」と教える。心の貯金が増えれば人は優しくなれる。そして今度は誰かに優しくしてあげることで恩返しをする。そんな心豊かな人に成長してほしいと願っている。核家族が増えた現代、お年寄りと交流することは子どもたちにたくさんの成長の場を与えているのだ。

【いくつになっても夢をあきらめない】

『彩の会』に通うのは子どもばかりではない。大人になってから日本舞踊を始めた人もいれば、長年習っている年配の方もいる。誰もが踊ることが好きで、生き生きと踊りを楽しんでいる。踊ることに年齢は関係ない。大事なのは夢をあきらめないこと。人はいくつになっても新しいことを始められる。夢を持って新しいことに挑戦する大人に子どもは憧れる。子どもが憧れるような大人を増やしたいというのが成瀬さんのもう一つの願いだ。
成瀬さん自身もそうありたいと常にチャレンジ精神を忘れない。苦労を重ねてきたからこそ身に付いた芯の強さ。日々の幸せに感謝し、常に前を向いて何事もプラス思考で生きている、その生き方そのものが生徒さんのお手本であり、憧れなのだろう。
そんな成瀬さんを支えているのは、これまでの人生で出会ったすべての人々だという。「出会いの数だけ学ぶことがあります。今、自分の前にいる人が自分のレベル。だから例え苦手な人に出会ってしまってもそこから何かを学ぶことが大事です。そして自分が向上すれば、いい人に出会えます。いい人から次々にいい人に繋がっていくものですよ」と自分の人生を振り返りつつ語る。たくさんの“いい人”に囲まれて活動ができる今がとても幸せだという。常に明るく溌剌とした成瀬さん。これからも子どもから年配の方まで、たくさんの人に踊ることの楽しさと元気を届けてくれることだろう。

プロフィール

成瀬 香縁  Koen Naruse

愛知県名古屋市出身。
5歳より日本舞踊を始め、16歳より舞台女優の道へ。
大阪での活動を経て、東京・浅草の舞踊家・三浦布美子さんの内弟子となり、数々の商業演劇・ショーに出演、舞踊振り付けや構成を学ぶ。その後、舞台演出家・成瀬芳一氏と結婚。
一時は舞踊界から離れるものの、子育ての後、平成9年に日本舞踊の家元として『成瀬流彩の会』を設立。
現在、会員は子どもから大人まで約120名。
インフォメーション
成瀬流彩の会 ☎090-6952-7391
http://sainokai.web.fc2.com/
ロックシティ守谷にて毎週水曜日稽古の他、稽古場(守谷市立沢)や、取手・柏の公民館などで稽古をしています。現在キッズ団、よさこい団募集中(会費1,000円)

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