お琴を通じて人として大事なことを学んでほしい
取手市にお琴の教室を開いて40年
さまざまな演奏会に出演され地域の小中学校でお琴の指導もされるなど忙しい毎日を送られる水野さんにお琴と共に歩んできた人生について伺った。
【音楽の原点は祖母のお琴】
水野さんがお琴に出会ったのは幼少の頃。祖母が弾いていたお琴に、ごく自然に触れていたという。お琴を弾くにはまず音程を合わせる“調弦”をしなければならない。いわゆるチューニングだが、幼かった水野さんは誰に教えてもらったわけでもないのに自然に調弦ができた。家に蓄音機があり、いつも音楽が流れている家庭で育った水野さんは、自然と音感を身に付けていたのだろう。後に筝曲家として大成する水野さんの原点ともいえるエピソードだ。
とはいえ、本格的にお琴を習い始めたのは友達に誘われて大人になってから。先生の元に通い名取を取得して自分の教室を始めたころ、水野さんにとって大きな転機が訪れる。それは今は亡き邦楽の第一人者・沢井忠夫氏との出会いである。初めて沢井氏の演奏を聴いた水野さんは、その技術の高さと表現の豊かさに圧倒されたという。沢井氏に師事することで格段に上達した水野さんは、狭き門をくぐり抜けて、邦楽を志す人のための支援プログラム「NHK邦楽技能者育成会」(2010年度で終了)に合格・修了した。その後、指導者としてはもちろん、筝曲の演奏者として、また詩吟や漢詩の伴奏を務めるなど、さまざまに活躍されるようになる。
【子どもたちの笑顔が元気の元】
やがてそんな水野さんに、近隣の小中学校から演奏会の依頼がくるようになる。体育館等で演奏し、子どもたちにお琴の話を聞かせたりしていたが、平成14年から中学校の音楽の授業で和楽器を用いるようになると、筝曲講師として学校での指導も始めた。
筝曲の音階は基本的に普段慣れ親しんでいる「ド・レ・ミ」と変わらない。未知の楽器に身構えていた子どもたちも、五線譜の楽譜を渡すと安心した顔になり、自分の話に耳を傾けてくれるという。しかし相手はデリケートな年頃の中学生。さぞ苦労が多いことだろうと尋ねてみると「みんないい子たちばかりですよ。もうかわいくてかわいくて」と目を細める。とはいえ、誰もが最初から意欲的に取り組むわけではない。「ときには嫌がる子を無理やり座らせてやらせることもあります。でもこちらが真剣に向き合えば必ず応えてくれます。最初はあくびをしていた子も『上手にできたね。もうちょっと頑張ればこれもできるようになるよ』と褒めて励ましてあげれば、頑張れるものです。そうしてみんなが上達し、一つの曲を気持ちを一つにして演奏できたとき、とても嬉しそうな自信に満ちた素敵な笑顔になるのです」。
水野さんが指導をするとき一番心がけているのは「楽しく演奏すること」。楽しくなければやる気が起きないのは大人でも同じ。でも弾けるようにならなければ楽しくない。あまり楽しくない練習というプロセスをいかに楽しく行い、お琴を弾けるようにさせるか、日々、授業を工夫しているという。マニュアルにとらわれず、ピアノの伴奏をつけてみたり、キーボードと合わせてみたり、子どもたちの興味を引く方法を考える。そして常にプラス思考で「やればできる」という自信を付けさせていく。この自信を積み重ねていくことで、子どもたちのやる気を引き出すのだ。
「子どもたちのお母さんのように温かく見守っていきたいのです」と語る水野さん。柔和で優しい印象の顔立ちに人柄が表れ、心を開く子どもたちが多いのも容易に想像がつく。でも「『もっと弾かせて』『また来てね』『待っていたよ』という子どもたちの言葉に元気をもらっているのは私なんです」と水野さん。そんな子どもたちの声が聞きたくて、6尺(183㎝)もある重い琴を何面も車に積み込み、忙しい合間をぬって学校に向かうのだそうだ。
【子どもたちに教えたい大事なこと】
水野さんが子どもたちに教えたいのはお琴の素晴らしさ、日本の伝統楽器の奥深さはもちろん、人としての在り方でもある。日本の伝統芸能である筝曲は礼節と切っても切り離せない。靴の脱ぎ方からおじぎの仕方にはじまり、感謝の心を忘れずに謙虚な気持ちで人と接することなど、大人になっていくうえで大切なことを教えていく。
お琴の演奏は合奏曲が多く、人と合わせなければよい演奏はできない。自己中心的にならずに全体を見渡し、他人と協調する姿勢をお琴を通して学んでほしいと願う。規則や規律を守ること、先生や親を敬う心をもつこと、他人の意見に耳を傾け違った考えを受け入れられる寛容さが大事であることなど、大人になる前の大事な時期だからこそ、ぜひとも子どもたちに伝えたいのだそうだ。
【音楽は人生そのものです】
40年余りお琴と向き合ってきた水野さんだが「まだまだ一生勉強」という。それだけお琴とは奥が深いもの。「音楽は何でもそうですが、筝曲も自分の感性をいかに表現するかが難しいところです。調弦する琴柱の1㎜の違いが音の違いになってしまいます。また演奏場所によっても音色は全く異なります。常に最高の演奏をするためには、正確な調弦はもちろん音響設備など、細部にまで気を遣います」と音に対して鋭い感性をもち、プロとして妥協しない姿勢を貫いている。このような真摯な姿勢が評価され、昨年の11月には岡山であった「第25回国民文化祭・邦楽の祭典」に門下生10数人と共に茨城県代表として出演する機会も得た。
「お琴を通してたくさんの人と出会い、いろいろな経験をすることができました。お琴は私の人生であり、一生付き合いたい友達であり、大事な宝物です。お琴に出会えたことに本当に感謝しています」と語る水野さん。「山があり谷があり、速くなったりゆっくりになったり、難しいところも易しいところもある。音楽は一曲一曲が人生そのものです。これからも音楽を奏でるように、軽やかに人生を歩んでいきたい」と抱負を語ってくれた。
プロフィール
水野 紀美子 Kimiko Mizuno
1969年 正派邦楽会にて名取取得
1970年 水野筝曲会発足
1971年 邦楽の第一人者 沢井忠夫に師事
1978年 第24期NHK邦楽技能者育成会卒業
1985年 つくば科学万博「取手の日」に取手市代表参加
1990年 NHK邦楽オーディション合格 FM放送
2001年 茨城県市長会会長賞受賞
2002年 茨城県知事賞受賞
2008年 第23回国民文化祭いばらき2008「邦楽の祭典」に取手市代表として参加、同じく国民文化祭いばらき2008「文芸祭“漢詩”」にも箏伴奏で参加
2010年 第25回国民文化祭岡山2010「邦楽の祭典」に茨城県代表として参加
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