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代美術家 東北芸術工科大学副学長 宮島 達男さん

投稿日: 2011年1月22日

代美術家 東北芸術工科大学副学長 宮島 達男さん

“命”をテーマに作品を創作する

暗闇の中に浮かび上がるLED(発光ダイオード)の無数の灯り、LEDを使ったたくさんのデジタルカウンター、LEDが埋め込まれた鏡の造形⋯
独特の世界観をもつ作品はいずれも守谷市在住の現代美術家・宮島達男さんが手がけたもの。
決まった指標がない現代アートの世界で、国内外で高い評価を受け、数々の受賞歴もある宮島さんに作品にかける思いや自身の活動について伺った。
作品は六本木・テレビ朝日社屋敷地内壁面を飾った COUNTER VOID(2003 左上) / MEGA DEATH(1999 左下) / HOTO(2008 右下)

【作品を通して“命”を表現したい】

LEDを使った作品で知られる宮島さんが、初めてLEDの作品を発表したのは1987年のこと。大学で油絵を学んでいた宮島さんだが、油絵では自分の言いたいことを表現できないもどかしさを感じていた。その自分の言いたいこととは「それは変化し続ける。それはあらゆるものと関係を結ぶ。それは永遠に続く」の三つ。自分が表現したいこの三つのコンセプトを形にする手段を模索していたときに、偶然出会ったのが当時デジタル時計などに使われていたLEDだったという。LEDが発光する不思議な光の美しさに惹かれ、「これだ!」と思ったそうだ。油絵は一度描いた絵は変化せず、そのままそこに留まる。さらに長い年月を経て色褪せてしまう。しかし灯りを点滅し、古くなったら交換できるLEDを使えば作品は永遠に存在し、「変化・関係・永遠」を表現できると直感的に思ったのだ。
宮島さんのどの作品にも通じる三つのコンセプト。これらはいわゆる「命」の営みを表している。作品に使われるデジタルカウンターも人間の一生を表したもの。1から9までの数字を繰り返し、ときには早くなったり遅くなったり、少し休憩したりしながら時を刻んでいく。生きていることの奇跡、命がつながっていくことの素晴らしさ、生の営みを続けることの美しさを宮島さんは表現していく。

【Art in You (芸術はあなたの中にある)】

 現代アートは難しいと思う方もいるかもしれないが、「美しいと感じるスイッチは見る側にあります。夕焼けや花吹雪を見れば誰もが美しいと感じるように、美しいことの基準線は人種や文化が違っても変わりません。作家は作家自身が表現したい物を作り、見る側の背中を押しているだけ。作品を見た人が少しでも自分の感性に触れるところがあればそれで十分なのです。10の作品を見て一つでもそんな作品に出会えたらラッキーと思って、その作品を自分の心の宝物にしてください。昔の著名な画家の作品のように評価が決まっていない分、自分で評価を決められるのが現代アートの魅力なのですから」と気軽に美術館に足を運ぶようすすめる。
宮島さんの考えは「Art in You」。芸術の価値はあなたの感性で判断すればよいという。とはいえ今の学校教育は芸術に関する授業が減り、子どもたちは感性を磨く機会を失っている。美術や音楽、書道などを通して学ぶ感性教育からは二つの「そうぞうせい」―「創造性」と「想像性」が養われる。自己発見し自分を創り上げていく「創造性」と相手のことを思いやる心を育てる「想像性」。この二つが備わって自分も他人も愛せる人になれる。これらの「そうぞうせい」を子ども時代に十分に養うことで「人間力」が磨かれ、自分で幸せを見つけられる大人になることができるのだと宮島さんは語る。

【子どもたちに感性教育を】

 「学校で養えない感性を、ぜひ家庭で磨いてほしい」と宮島さん。美術館はもちろん音楽のコンサート、ダンスや演劇の公演など、いろいろなジャンルのアートに触れて視野を広げることで感性は磨かれる。アートは勉強やスポーツと違って個人の能力に左右されない、誰もが平等に学ぶことができる教材だからこそ、多くの子どもたちに触れて感じてほしいのだと。
そう語る宮島さんが美術の世界を志したきっかけは「佐伯祐三や青木繁の自然体で自由な生き方に憧れた」からだそうだ。子どもは憧れる大人がいるから、あんなふうになりたいと頑張れる。でもそんな憧れの存在を見つけられない子どもも多い。「そんな子どもたちこそ、ぜひ日本から飛び出していろいろな世界を見てほしい」。宮島さん自身、学生時代に初めてヨーロッパを訪れたとき、とてもカルチャーショックを受けたそうだ。みんなと同じことが良しとされる日本と異なり、他人と違うことが当たり前、違うことが価値をもつとされるヨーロッパの文化に触れたことは大きなプラスになったという。25カ国を回った宮島さんがこれから取り組みたいのが、貧しい国の子どもたちにアートを届ける活動だ。貧困や戦争などの混乱で学校に通えない子どもたちの多くは、絵の具に触ったことも、絵を描いたこともない。そんな子どもたちにいつかアートに触れさせる機会を作ってあげたいと願っている。

【『時の蘇生』柿の木プロジェクト】

宮島さんが美術の他にもう一つ取り組んでいる活動がある。それは被爆した柿の苗木を全国の学校などに植樹する「『時の蘇生』柿の木プロジェクト」。偶然長崎で“被爆二世”の柿の木と出会った宮島さんは、その生命力の美しさに心を打たれたという。日本人として原爆とは切り離せない宿命を負っていることを感じ、柿の木を通して平和の尊さを伝えたいと、展覧会で苗木を作品として発表して里親を募集する活動を始めた。それから15年、今では世界17カ国に苗木を送り、国内では近隣の取手二中をはじめ茨城県内のいくつかの小中学校でも元気に育っている。この活動も宮島さんにとっては「アート・プロジェクト」。“植樹”という活動を通して人々は出会い、様々に表現し、柿の木は成長して永遠にメッセージを発し続ける。子どもたちには平和の素晴らしさ、命の尊さに気づいてもらいたいのはもちろん、“表現”や“活動”を通して生きる意味を考えるきっかけになってくれればと願う。
守谷に暮らして18年。守谷は、豊かな自然とおいしい野菜があって心も体も休まる場所と語る宮島さん。これからもさまざまな活動を通してメッセージを発信し、見る人の心の琴線に触れる作品を創作してくれることだろう。

プロフィール

宮島達男  Tatsuo Miyajima

1957年 東京に生まれる
1984年 東京藝術大学美術学部油画科卒業(学士)
1986年 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻終了(修士)
1990年 アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の招きでニューヨークに滞在
1990−1991年 ドイツ文化省芸術家留学基金(DAAD)留学生としてベルリンに滞在
1992年 茨城県守谷市に転居
1993年 カルティエ現代美術財団アーティスト・イン・レジデンス・プログラムによりパリに滞在
1998年 ロンドン・インスティチュート名誉博士号受賞
2006年 東北芸術工科大学副学長に就任
■Homepage
http://www.tatsuomiyajima.com/jp/index.html

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