第0研究室 TONE TONE(トネトーン) アートディレクター 浅野 純人さん

第0研究室 TONE TONE(トネトーン) アートディレクター 浅野 純人さん

  • 2010年9月21日 
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アート

すごいと感動できること、面白いと思えることを、美術を通して伝えていきたい。

取手市はアートファンの多い町である。多くのアーティストがアートイベントを成功させている。第0研究室浅野純人さんもその一人。
ふだんの生活の中に美術があり、一枚の絵、ひとつの場所、今日着る洋服、何気ないものにも意味がある。
その意味に気づけることが美術だと語る。

 

今年の夏、取手を舞台にたくさんのアートイベントが行われた。アートギャラリーきらりで行われた「取手アートの日。」では取手市で活躍するアート団体が 結集、子供のためのアート教室や大人のためのアート講座など様々なイベントが開催された。参加したアート団体のひとつ、取手市取手にある第0研究室(通称 ゼロ研)の浅野純人さんは子供向けのワークショップを担当。また、8月20日21日の両日はゼロ研主催の「工場見学」が行われた。取手にある製造工場を見 学して取手の魅力を発見してもらおうという企画だ。協力してくれた企業は、矢羽根本家さん、新六本店さん、田中酒造さん、染野屋さんの4か所。それぞれ工 場見学をしながら包丁研ぎ、利き酒、豆腐づくりなどの体験をした。

 

【工場見学と美術の不思議な関係】

なぜアーティストが工場見学を主催したのか?素朴な疑問にコーディネーターの浅野さんはこう答えてくれた。「取手の町を眺めただけでは分からないことも、 中に入ってみて話を聞くといろいろなことが分かる。関心を持ち知識や理解が深まると人に伝えたくなりますよね。町は意外と面白い、そんなことに気づける。 人の心の動きが変わると、人の流れが変わって、町が活性化するかも知れない。自分たちが行動をおこしたことで参加した人が何かに気づき、変わっていく。そ うやって気づくことが美術につながると思うんです」。実際に工場見学をすると感動すること、すごいなと思えることがたくさんあったという。何かを作り出す 現場のパワーとでもいうのだろうか。

 

【取手とアートとプロジェクト】

浅野さんは取手市の「あーと屋えまる」で子供に図画工作や、大人向けにデッサンなどを教えている。高校の美術科の非常勤講師でもある。
子供の頃、水泳の先生にあこがれて、水泳のコーチになろうと思った浅野さん。国語の先生になろうと思ったこともあり「教える人」にあこがれを抱いていたという。
その後多摩美術大学、東京芸術大学大学院に進み美術の道へ。福岡から八王子、そして取手に来た感想を伺うと「八王子から東京芸大の上野に行くと思っていたので、最初は取手?取手か!とがっかりしました(笑)。若い世代には魅力が少ないと感じましたね」。
けれど住んでみると、取手はアートの町と言われるほど芸術を支援する土壌があり、制作環境も抜群に良いと感じたという。都内の美術館やギャラリー巡りにもアクセスが良いのも魅力と感じた。
取手の町に美術で関わるようになった最初のきっかけは、JR取手の高架下の壁画制作である。芸大の仲間による原画をもとに、市民と一緒になりひとつの作品 を作り上げた。「それまでの作品は一人で制作することが多く、初めてプロジェクトとしての仕事をしました。それ以降も大師通り商店街での企画をしたり、プ ロジェクトって楽しいと感じました」。
もともと人当たりが良い浅野さんは、市民のみなさんと打ち解けるのにも時間がかからなかった。プロジェク トを実施するにあたっても、町の人と話し合いをして、何かを作っていく過程を大事にしているという。自分本位ではなく、商店街を活気づけるようポスターを 描いたら商店街の人が喜んでもらえるんではないだろうかと考える。美術的な手法を使って、決して押しつけではなく、お互い納得のいくものが出来るように コーディネートすることが大切だと語る。

 

【いつもの美術がそこにある】

浅野さんの作品に「いつもの美術」というインスタレーションがある。壁に反転した文字が描かれ、反対側には障子がある。その間に立ち障子を開けると鏡がある。その鏡に自分と壁に描かれた文字が写る。鏡に写った自分こそが美術なのだと言葉が伝えている。
「美 術は特別な人たちだけのものだとは思わない」。普段の行為の中に美術があると語る浅野さん。「例えば、絵と服を選ぶことは同じ思考回路で出来ていて、今日 のシャツにはどんなズボンが合うか、自然に考えますよね。絵も、ここが赤ならそれに合う色はなんだろうと考えながら絵具を塗る。この絵具を使いたいけど、 高いからこっちにしようと、この服を買いたいけど高いから似たような違う服にしようは、同じ感覚ですよね」服もその人を表現する美術、そんなことに気づけ たら、美術はもっと身近なものになるかもしれない。
普段の自分と美術家としての自分、その間に境界線はない。普通の目線を大切に「いつもの美術」をやっていると話してくれた。
絵画教室やワークショップで「大人」や「子供」とつながり、教員の仕事では「学生」とつながり、そして「町」とつながる。様々な年齢の人間や場所とつながり、あちこちにバイパスをつなげていくのも自分の仕事だと感じているという。
子供向けのワークショップや絵画工作教室では、子供たちが「楽しかった」と言って帰ることを大切に考えている。「教室では、子供たちが今までに経験したこ とのないことをやります。その体験が心から楽しいと思わせること、いいものが出来たと思わせることが大事です」。また、良いところを見つけてほめてあげる ことで、たくさんの成功体験をさせることも重要だという。
町や人との関わりを大切にしながら、「いつもの美術」という目線で、自分たちのやりた いことをやってきた。その結果として町が賑やかになれば嬉しいと浅野さん。今後もまちづくりプロデュースや絵画教室などを通じて、美術が身近にある活動を していきたいとのこと。美術館に行くだけがアートではない。自分の隣にある美術を感じた取材であった。

 

浅野 純人  Asano Sumito

1979年 福岡生まれ
2003年 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業    第0研究室設立
2005年 東京芸術大学大学院美術研究科壁画専攻修了
2006年 あーと屋えまる開店
2009年 アートの和実行委員会、取手蛍輪実行委員会、取手宿ひな祭り実行委員会他
2010年 取手宿ひな祭り縁日ワークショップ、岡堰鯉のぼりプロジェクト実行委員会
2003年より取手アートプロジェクト参加。銀座等で個展・グループ展開催。

■ホームページ
http://asanosumito.info/(浅野純人ホームページ)
http://zeroken.org/blog/(第0研究室)
http://artya.torideburg.com/(あーと屋えまる)

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シンヴィング編集部

1994年創刊の地域情報紙シンヴィング。 もっと『守谷』『取手』『つくばみらい』を合言葉に茨城県南地域の情報をお届けします。

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