茨城県南瓦工事業組合理事長 青柳 薫さん

茨城県南瓦工事業組合理事長 青柳 薫さん

  • 2009年3月7日 
  • (0) 
  • Facebook
  • Twitter

伝統的

約1400年前に、日本に伝わった瓦と瓦葺きの技術。
日本の気候風土に合った瓦は、改良を重ねながら、日本の伝統や趣きを大きな屋根を広げて守り続けてきた。
1400年受け継がれてきた職人の心とは。

「甍の波と雲の波」と童謡にも歌われる「甍(いらか)」は瓦のことを言い、瓦屋根の家並みが続くことを「甍の波」と表現している。屋根の高さを越えて、雲の波間を悠々と泳ぐこいのぼりの姿が、日本らしい風景として目に浮かんでくる。2005年に茨城県知事より「現代の名工」として表彰を受けた青柳薫さんに瓦の魅力について伺った。

 

【1400年の歴史】

 
青柳さんが家業を継いだのは1973年22才の時である。今年で36年になるが「瓦の歴史は、もう1400年になるんです。それから比べると、1400年分の36年ですから、まだまだだと感じますね(笑)」。飛鳥時代、瓦は仏教の隆盛とともに中国から日本に伝わり、日本最古の寺、飛鳥寺(奈良県)に初めて瓦が使われた。一般の家庭に使われるようになったのは江戸時代後期。火事の多かった江戸の町では板屋根が普及していたが、土を焼いて作った瓦が防災にもなり、また、隣家に燃え広がることも防いでくれたとして広がっていったようである。
青柳さんの家でも30数年前までは瓦を製造していた。土を練ってプレスし、天日で乾燥してだるま窯で焼く。朝の2時から始まる火入れ作業は大変だった。「顔は真っ黒に日焼けし、窯焼き作業は暑くて、夏ははだかでやっていましたね」と当時を振り返る。
主な仕事は、一般住宅の新築と屋根リフォームだが、他にも、神社、寺、結婚式場、幼稚園などの屋根も施工している。2005年の「卓越した技能者」県知事表彰では、特に神社仏閣の屋根工事に関して完成時には非常に綺麗な曲線美に仕上げる技能に卓越していると評価を得た。写真の神社は江戸川区の天祖神社の瓦を葺き替えた時のもの。

 

【瓦の魅力】

 
瓦の魅力について伺うと、まずは日本の気候風土に合っていること。雨が多く、地震や台風と言った自然災害に対して、瓦は力を発揮する。特に阪神・淡路大震災を境に、耐震性を重視した工法に変わってきている。「昔の工法だと瓦が飛ぶこともありましたが、今は厳しい基準が出来ていて、風で飛ぶようなことはありません。瓦は重いから地震に弱いのではということも間違い。改良を重ねながら1400年も瓦屋根が受け継がれているのが、気候風土に合っている証拠なのでしょう」。
もうひとつの魅力は、その曲線美にある。瓦1枚1枚が流れるようなラインを引き、日本らしい風情を醸し出す。もともとは中国のものという事も忘れてしまう位、瓦は日本の風景に溶け込んでいる。「今は洋風瓦も増えましたが、日本瓦の良いところは、自分の感性が活かせるということ。どれ一つ同じに瓦を葺いた家はなく、良く見ると、その人の個性が出ているので、あの家の瓦は誰が作ったとかが分かるんです」と青柳さん。

 

【若い力を伸ばしていきたい】

 
美しい瓦屋根を仕上げる為に、かわらぶき技能士という資格があり、青柳さんはその検定員としても活躍している。検定試験は毎年1月に行われ「瓦葺きの実技試験もあります。会場は今では体育館になりましたが、昔は外に実技試験場が作られ、寒い時期で、時には雪が降る中、検定が行われることもありました。寒くても汗をかいて、一生懸命やっている姿は心を打つものがありますね」。
神社・仏閣から一般家屋の屋根まで、自分のやった仕事が形として残っていく。ものを作る喜びがそこにある。瓦組合の青年部があり、若手技能者の育成、研修、情報交換など、交流の場を持っている。「青年部では仕事も遊びも仲間で楽しんでいます。独立することも可能。仕事にしたいと考える若者を応援したい」と青柳さん。

 

【屋根の手入れと防災】

 
耐久性のある瓦は、一説では1000年持つと言われている。瓦を葺くには下地の作業が必要で、下地から丁寧な作業が要求される。完成すれば目に見えなくなる部分にも、技術の差が出るそうである。「雨漏りの際に知識のない業者に依頼して、以前より雨漏りがひどくなったという例もあります。リフォームなどを考える時にも、屋根診断技士の認定を受けプロの目で診断できる業者に依頼して欲しい」。
手入れさえ良ければ、瓦は何年でも持つ、その注意点を伺った。まずは、時々自宅の屋根を遠くから眺めてみることだそうである。瓦の並びがゆがんでいないか、大きな落葉樹がそばにある時は、屋根に乗った葉っぱを落とすことも必要。雨どいがつまっていると、建物が傷むので「といの中に鳥が巣を作ることもありますから、時々見て欲しいですね」。
最近の雨もりは外壁からの場合が多く、雨もりをしている箇所と実際に雨が入り込んでいる場所では違う事もある。「自分の判断で、屋根に登るのは危険ですから、必ず信頼のおける地元工事店に頼んで欲しい。特に雨の日は屋根に登らないでください」。
雨もりの修理は、当然ながら雨の日が多く、夜中でも連絡が入ることがあるとか。「天井が濡れていると連絡があって、見に行ったら雨もりではない様子。屋根裏に入ってみたら、大きな蜂の巣があり、そのヤニで天井が濡れていたんです。これはびっくりして、慌てて逃げました(笑)」。
今後は、県南瓦工事業組合の取り組みとして、県の防災組織図に沿って応援体制を整え、災害時の支援をしていきたいとのこと。
これから、寒さも緩み、春の気配が日に日に濃くなっていく季節。自分の目線を少し上にあげて「甍の波」を眺めてみては。新しい風景に出会えるかもしれません。

 

青柳 薫  Kaoru Aoyagi

1951年    下妻市生まれ
1973年    家業(青柳瓦店)に就く
1988年    代表取締役就任
2005年    「卓越した技能者」知事表彰を受ける。
免許・資格等
瓦屋根工事技士、全瓦連屋根診断技士、茨城県屋根診断技士、電気工事士
技能検定:1級かわらぶき技能士

茨城県南瓦工事業組合
茨城県下妻市鯨1386 Tel.0296-43-4423

アバター画像

シンヴィング編集部

1994年創刊の地域情報紙シンヴィング。 もっと『守谷』『取手』『つくばみらい』を合言葉に茨城県南地域の情報をお届けします。

投稿者関連記事

Comments
コメント

※は必須項目です。

CAPTCHA