取手市・守谷市・つくばみらい市の
地域情報サイト シンヴィング

1994年から続く地域情報誌『シンヴィング』の編集スタッフが作る地域情報サイトです。

広告をお考えの方はこちら

Web版 シンヴィング

エリア キーワード

投稿日: 2017年6月23日

都市景観研究家・造形家 樋口正一郎さん

世界の都市を巡って45年アートが歴史を創る

世界の都市を巡って45年アートが歴史を創る

広場や公園、道路など公共的な空間(パブリックスペース)に
設置される芸術作品、パブリックアート。

樋口正一郎さんは1970年に渡米したアメリカで
パブリックアートに魅せられ、
以来、アメリカやヨーロッパをはじめ、
世界各国のパブリックアートや建造物を訪ね歩いてきた。

「世界一パブリックアートを見てきた」と自負する樋口さんは、
パブリックアートから何を感じてきたのか?
つくばみらい市のアトリエで創作に励む樋口さんに伺った。

芸大卒業後、渡米アメリカの価値観に触れる

工業高校から親の反対を押し切って
東京芸術大学彫刻科に進学する、
という異色の経歴をもつ樋口さん。

しかし意外にも工業高校で学んだ
「図面」の技術が役に立ち、
大学時代に大手建設会社で
建築模型作りのアルバイトを経験。

さらに大学卒業後はアメリカに渡り、
模型作りの経験を活かして
ニューヨークの設計事務所で働いた。
そこで日本とは真逆の価値観に出会う。

「事務所に入ったとき社長にまず
『君は何ができる?何がしたい?いくらほしい?』と
聞かれて驚きました。
さらに仕事を始めてみると日本とは全く違った。
日本では何かを造るとき、
この額で造ってくれと予算の話から入るけど、
アメリカでは『いくらかかってもいいから、
誰も考えないような面白いものを考えろ』と
若造の自分がデパートのファサード(正面部分)の
デザインを模型で表現するよう任せられたんです」。

パブリックアートとの出合いを求めて

アメリカ人の気質に触れ、
大いに刺激を受けた樋口さんは、
アメリカをもっと知ろうと
週末になると街中を歩き回った。
そこで気づいたのが
広場や公園などに設置されている
多数のパブリックアート。

興味がある人だけが足を運ぶ美術館とは違い、
パブリックアートは
だれもが見ることができてみんなで共有できる。

「グレイハウンド(長距離バス)を使って
アメリカ全土を訪ね、
アラスカ以外はほとんど行きました。
ニューヨークは細い露地にまで入り込み、
ニューヨーカーよりも
詳しかったんじゃないかな」と笑う。

そんな数多くのパブリックアートを
アメリカで見てきた樋口さんが、
もっとも衝撃を受けたのが
ウォール街のすぐそばに設置されていた
リチャード・セラの『アーク(傾いた弧)』。

厚さ76ミリメートル、高さ3メートル、
長さ36メートルの巨大な鉄板が立っている作品だった。

「当時は東西冷戦時代だったので、
鉄壁の守りを表現していたんでしょうかね。
日本では思想やコンセプトの強い作品は嫌われますが、
それが街中に堂々と立っていることに驚き、
アメリカはすごい国だなぁと心底感心しましたね」。

アート貧困国の日本今こそ作品の集積を

一方で日本に目を向けると、
「日本で流行っているパブリックアートは
イベント型です。
終わったら作家が持ち帰る。
日本には歴史に残して未来に託す
という発想がないのです」と
樋口さんは憂いている。

「アメリカやヨーロッパでは
芸術家が美術館やギャラリーで展示したものなど、
国や美術館が買い取って記録として残しています。
現在の集積が歴史を作っていくことを
分かっているから。
でも日本は買わない。
記録が残らない。
だから優れた芸術家や建築家は日本に残らず、
海外にどんどん出ていってしまう。
大きな損失です」。

地下鉄の駅に巨大なリサイクルアート

45年余り世界各国の都市を巡った体験は
雑誌や新聞、テレビ番組出演などで発表してきた。

名だたる多くの芸術家も取材し、
彼らの作品や思いを言葉にして
美術ファンや建築家に届けてきた。

その一方で造形家としても活躍し、
パブリックアートの制作や
個展を開いてきた樋口さん。
代表作の一つが、
都営地下鉄大江戸線「清澄白河駅」構内にある
巨大な壁画『20世紀文明の化石』
と名付けられたアートホーム壁だ。

「駅のある江東区は、
昔は多くの工場が並んでいた場所。
それが壊され、マンションや商業施設に変わり、
街の歴史がなくなってしまう。
そこで、ここで生産されていた工業製品の
実際のスクラップを利用した作品を造って、
地下に歴史を残そうと思ったんです」。

作品は宇宙が誕生したビッグバンから始まり
太陽系の誕生、
日本列島の生成と日本文明の発生、
近・現代の都市や建築、経済、科学など
多様なテーマを盛り込んだ
壮大なスケールで見る人を圧倒する。

アートを日常空間に持ち込む
地下鉄のパブリックアートとしては、
世界でも最大規模といってもいいだろう。

次の世代に手渡すまちづくりを考える

大きなアトリエを持てる場所を探して、
10年前につくばみらい市に
引っ越してきた樋口さん。

工場を改装した
3棟のアトリエで作品づくりに励んでいる。

「表現者は常に新しいことを
やっていないとおもしろくない」と、
木の廃材を組み合わせた立体作品や、
筆を使わず
キャンバスに色を乗せて滑べらせた作品など、
斬新なアイデアで
地球環境をテーマとした表現の幅を広げている。

最近は、芸術と建築の両面から
世界の都市を見てきた経験を
地域に還元しようと講座も開いている。

「時を経て見えてくるものがある。
いつ結果が出るか分からないことに投資し、
歴史を残していくことが大事なのに、
日本はそれをやっていない」と
危惧する樋口さん。

つくばみらい市についても
「間宮林蔵という歴史的資産を活用しつつ、
民俗資料館のような形で
歴史を残していくべき」と語る。

広い見聞から得られた
豊富な知識や深い洞察力をもった樋口さんが、
言葉や作品を通して発信する
メッセージにこれからも期待したい。

プロフィール

世界の都市を巡って45年アートが歴史を創る

都市景観研究家・造形家
樋口正一郎さん[Shoichiro Higuchi]

1944年    北海道生まれ、つくばみらい市在住
1968年    東京芸術大学美術学部彫刻科卒業
1968~1970年東京大学都市工学科研究生
1969年    第9回現代日本美術展コンクール優賞受賞
1970年    渡米 設計事務所勤務
1982年以降、造形活動の傍ら、
世界の都市のパブリックアート、パブリックデザイン、
建築、橋など都市の動向を多岐にわたって
写真撮影と情報収集を行い、
『日経アーキテクチュア』『日経アート』
『商店建築』や『産経新聞』などの
雑誌や新聞に寄稿、
『テレビ美術館』などのテレビ番組にも出演

主な著書:
「アメリカ50都市の環境彫刻」
「ヨーロッパ50都市の環境彫刻」誠文堂新光社。
「都市造形と彫刻の未来」
「イギリスの水辺都市再生」
「アジアの現代都市紀行」鹿島出版会

http://www.uaa-higuchi.jp/