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投稿日: 2018年4月27日

雲研究者 荒木 健太郎さん [Kentaro Araki]

雲の心を知ればもっと雲が好きになる

雲の心を知ればもっと雲が好きになる

空に浮かぶ大きな雲に
乗ってみたいと思ったり、
夕焼けに染まる雲に心癒されたり…
そんな経験は誰もがあるだろう。
常に私たちの身近にある雲を
科学的に研究する中で、
雲に魅せられ、
雲の美しい写真をSNSにアップし、
全国の雲を愛する「雲友」(くもとも)から
注目を集める荒木健太郎さん。
防災にも役立ててもらおうと
雲について易しく解説した本も執筆。
「雲の心を知ればもっと雲が好きになる」
と語る荒木さんに、
雲との付き合い方を伺った。

数学を活かそうと気象学を志す

壁一面に自身が撮った
美しい雲や雪の結晶の写真が貼られている研究室。
雲の研究者として知られ、
雲への愛を語る荒木さんだが、
意外にも「雲愛」(くもあい)歴は短い。
雲が好きで研究者になったのではなく、
研究をしていたら雲が好きになったという。
高校生の頃は数学に興味があり、
数学を活かそうと大学は経済学部に進んだが、
よい出会いに恵まれず、
以前から興味があった気象学を志し、
気象大学校に入り直す。
そこでは温帯低気圧の発達について研究し、
「現実に起きている現象よりも
数学的な関心の方が強かった」と数学的理論から
大気現象を解明することに力を注いだ。
卒業後は地方気象台で
天気予報、観測業務などに従事した後に
現職に就き、
自然災害を引き起こす雲の実態を解明し、
防災気象情報の高度化のための
研究に取り組んでいる。

防災の研究から「雲愛」に目覚める

雲の研究を始めたのも、もともとは防災のため。
雲や空を観察して天気の変化を予想することを
観天望気(かんてんぼうき)という。
荒木さんは、雲とコミュニケーションをして、
雲の心を感じることで、天気の変化を読むことを
「感天望気」(かんてんぼうき)と呼んでいる。
もっと一般の人にも雲と親しんで
雲のことを知ってもらい、
気象の変化による危険を察知し、
防災意識を高めたいと考えた。

何度か防災に関する講演会を行う中で感じたのは、
一般の方が講演会の参加直後は
一時的に防災意識が高まっても、
それが長続きしないということ。
2015年に起きた常総市の水害では、
1年前と半年前に同市で防災講演会を行い、
ハザードマップを活用して
日頃から災害に備えることの重要性を説いたが、
実際に災害が起きて人々が口にしたのは
「まさかこんなことが起こるとは思わなかった」
という言葉。
「常に防災意識を持って生活するというのは
難しいし、いつも気を張っていたら
疲れちゃいますよね。
そこで雲を愛でましょうと提案するんです。
雲を好きになれば雲の知識が増えていくし、
知識をもって雲を眺めれば
危険を呼びかける雲の声が聞き取れるようになる。
雲の声を聞き逃さずに危険を察知できれば、
早く避難することができます」。

雲の気持ちに寄り添い雲への愛情が湧く

気象に関することを
もっと分かりやすく伝えたいと思い書いたのが
『雲の中では何が起こっているのか』という本。
これが雲と向き合うきっかけとなる。
この本の中で、空気の塊のキャラクター
「パーセルくん」をモデルに
積乱雲のでき方を分かりやすく解説しているが、
パーセルくんの「心の声」も吹き出しで表現。
「パーセルくんの心情を考えてみたんです。
積乱雲ができるときは温かい空気が
冷たい空気に持ち上げられるわけですが、
そのとき温かいパーセルくんと冷たいパーセルくんは
こんなことを考えているかなとか。
この子(雲)たちは体をはって
物理現象を表現しているわけで、
素直な姿が好きになっちゃって」と
雲への愛情が芽生えたそうだ。

市民参加でデータ収集「#関東雪結晶 プロジェクト」

雲の研究のなかで荒木さんを有名にしたのが
「#関東雪結晶 プロジェクト」。
一般の人に空から降ってきた
雪の結晶を撮影してもらい、
SNSで写真を送ってもらってデータを集め、
研究に役立てる市民参加型のプロジェクトだ。
『雪は天から送られた手紙である』という
雪研究者、中谷宇吉郎博士の言葉があるが、
実際に雪の結晶は
雲の中の様子を知る手掛かりになる。
関東では年に数回雪が降るが、
関東での「雨か雪か」の予測は
さまざまな要因でとても難しく、
雲の中でどんなことが起きているかも
よく分かっていない。
そこで直接観測が難しい雲の中の現象を
雪の結晶から推測するというものだ。

とはいっても専用の機材がなければ
雪の結晶を撮影するのは難しいのでは?と思うが、
荒木さんはスマートフォンに
100円ショップで手に入るマクロレンズを使い、
いとも簡単にこの問題をクリア。
スマートフォンで撮った鮮明な雪の結晶の画像に、
他の研究者仲間も驚いたそうだ。
さらに誰もが手軽にSNSに投稿できる時代、
これなら多くの人に参加してもらえると
「#関東雪結晶」というハッシュタグで
投稿してくれるように呼びかけたところ、
昨年の冬は1万件を超える画像が集まり、
観測データの収集につながった。
市民がインターネットで参加して
雪結晶観測を行う、世界で最初の例になったという。

一期一会の出会いを楽しむために雲を知る

「刻々と姿を変える雲との出会いは一期一会」と
語る荒木さん。
雲を知り尽くしている荒木さんは
「雲は偶然出会うものでなく、
出会いたい雲に会いに行く」という。
気象庁がHPで公開している
「高解像度降水ナウキャスト」を見て
雲の動きを予想し、
目的の雲が来そうなときは
屋外に会いに行くのだそうだ。

そんな荒木さんが
「自分史上最高の雲」というのが、
2015年8月に研究所の屋上で出会った雲。
「レーダーの画像を見ていて、何かがきそうだと
屋上で待っていたら出会えたんです」という雲は、
スーパーセルという巨大な積乱雲と、
その雲底から下に伸びる
ウォールクラウドという雲。
スーパーセルは強い竜巻を発生させたり、
巨大な雹を降らせたりするが、
日本国内ではあまり見られず、
きちんと映像資料として観測されたのも初めてで、
そのまま日本気象学会誌に投稿したという。

荒木さんが2冊目に出した本
『雲を愛する技術』では、
「知れば知るほど好きになる」と「雲愛」を語る。
「相手と上手に付き合うには、
相手のことを知らなければならないでしょう。
それは人も雲も同じこと。
雲のことをよく知ればますます雲が好きになるし、
自分が出会いたい雲や虹、夕焼けも
狙って見ることができます。
積乱雲のような災害をもたらす雲も、
相手のことを知って行動を先読みできれば、
上手い距離感で付き合って
早めに対応できるようになります」。

そして最近出版した
「世界でいちばん素敵な雲の教室」は
荒木さんが撮影した美しい写真が満載で、
だれもが雲の虜になってしまいそうな一冊。
易しい解説も付いているので、
「雲友」入門の書にぴったりだ。

きれいだなと眺めているだけだった空。
しかし一歩進んで、どうしてこんな雲が現れるのか、
なぜこんな色の空になるのか、
興味をもって知ろうとすれば、
そこから新たな世界が広がるかもしれない。
雲を知って雲を愛し、自分や身近な人の身を守る、
そんな「雲友」の輪が広がることを
荒木さんは願っている。

プロフィール

雲の心を知ればもっと雲が好きになる

雲研究者 荒木 健太郎 [Kentaro Araki]

1984年茨城県生まれ。
気象庁気象研究所
予報研究部第三研究室研究官。
慶應義塾大学経済学部を経て
気象庁気象大学校卒業。
専門は雲科学・メソ気象学。
防災・減災に貢献することを目指し、
豪雨・豪雪・竜巻などの
激しい大気現象をもたらす
雲の仕組みと雲の物理学の
研究に取り組んでいる。

著書: 
『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)
『雲を愛する技術』(光文社新書)
『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)

Twitter : @arakencloud
Facebook : kentaro.araki.meteor